「ウイグル全体が巨大な収容所」当局の動画削除を執念で上回って拡散したら…あまりに悲惨な現実

「ウイグル全体が巨大な収容所」当局の動画削除を執念で上回って拡散したら…あまりに悲惨な現実

中国の新疆ウイグル自治区で、深刻な人権侵害として指摘される住民の大規模収容。それに追い打ちをかけたのが、中国政府のゼロコロナ政策だ。収容を免れた人々も自宅からの外出を厳しく規制され、食料も満足に入手できないという。実態をなんとか外部に伝えようと、ウイグルの人々は動画アプリでの発信を試みている。ただ、当局の言論統制は厳しく、投稿しても「30分程度で次々と削除されていく」という証言も。海外にいるウイグルの人々は、対策として、動画を発見するとすぐに複製してSNSで拡散するなどの手法で、転載された動画が残るよう努力を重ねてきた。
こうした活動の結果、中国に残ったウイグルの実態が、次第に漏れ伝わってくるようになっている。ただ、明らかになったのはあまりに悲惨な状況。現在は新疆ウイグル自治区も、中国のほかの地域と同様に厳格な外出規制は解かれたものの、集団隔離は続いているとの情報もある。家族を国に残してきたウイグルの人々は「故郷全体が巨大な収容所のようだ」と嘆いている。(共同通信=上松亮介)

▽拡散される映像、広がる抗議
11月24日、新疆ウイグル自治区の区都、ウルムチの集合住宅で火災が発生した。救助は、コロナの防疫対策によって封鎖されていたために遅れ、10人が犠牲になったとされる。抗議のデモがウイグルで起きると、その様子を収めた動画がSNSを通じて拡散された。すると、中国各地で抗議行動が拡大。ゼロコロナ政策によって行動制限を強いられている点では、ウイグルではない中国人も同じだからだ。
日本にあるNPO法人「日本ウイグル協会」は、火災を受けて中国の動画投稿アプリ「抖音(ドウイン)」などの動画を収集、分析した。担当した30代の男性は憤りを隠さない。
「ウイグルの人々は収容政策に苦しめられた上、コロナ対策においても食料や医療を十分に与えられていない。人の命の重さを何とも思っていない中国政府の正体が分かる」
ある動画には、広い倉庫のような場所にベッドが等間隔に並べられた集団隔離用とみられる施設が写っていた。音声も入っており、「昨夜、一人が心臓発作で死にかけた。人々は強制的に連れてこられた。汚く医療機器もない。ここは収容施設なのか?」と嘆くような声が聞こえた。別の動画では、撮影者が自分の顔を出し「犯罪者のように住宅の扉を外側から施錠されている」と伝えている。ウルムチの火災の犠牲者もこれが原因で逃げ遅れたと指摘していた。

▽火災の遺族、実名で証言
スイスに亡命しているアブドゥルハフィズ・マイマイティミンさん(27)は、ウルムチの火災の動画を見て、犠牲になったうちの4人が親族だったと気付いた。亡くなったのは48歳の叔母と5歳~13歳のいとこという。オンライン取材に応じ、涙をこらえながら実名での証言に踏み切った胸の内を打ち明けた。「ずっと家族の消息が分からなくても耐えてきたが、その死を知り、自分はもう声を上げないといけないと感じた」
マイマイティミンさん記者の質問に対し、時折胸に手を置き、通訳を務めた女性に背中をさすられながら、訥々と答えてくれた。

2021年、当時留学していたトルコからスイスに亡命した。父親が17年以降に収容施設に送られ、他の家族も消息不明になっていた。火災の様子を伝える動画を見た時、集合住宅の外観から、叔母が暮らす建物だとすぐに分かった。留学直前に滞在していたためだ。居ても立ってもいられず、翌朝にウルムチの知人に連絡を取った。すると、叔母らが100日以上に及ぶ都市封鎖によって、自宅軟禁の状態にあったと知らされた。

日本で首都圏に暮らすウイグルの女性も約1カ月前、ウルムチに残した家族から、集合住宅の玄関が封鎖されていることを聞いたという。各部屋の扉には外出を禁じる張り紙がされており、外出しようとすると紙が破れてばれる仕組みになっていた。
新疆ウイグル自治区では、住民の大規模収容が続いていると話した上で、怒りを露わにした。「ここ数年、みんな収容におびえて集まることも控えてきた。何が感染対策か。中国政府はウイグル人を根絶やしにするつもりではないかとさえ思える」

▽政府職員が寝食を共にするプログラム
収容施設に送られた経験を持ち、亡命先の米国で証言活動を続けてきたウイグル族のズムレット・ダウトさん(40)は、弾圧の一端を示す重要な証拠としてドウインなどの動画を収集し、メディアに訴えてきた。多くは投稿された約30分後には削除されたものだという。当局が検閲に躍起になっているのがうかがえる。
ズムレットさんは数十台のスマホを駆使してドウインの複数のアカウントを取得している。コメント欄で「そちらの天気はどうですか?」と隠語を使って投稿者に接触する。すると、「激しい雨が降っています」などと何か悪いことが起きていることを感じさせる返信があるという。
収集した動画の中には、ズムレットさん自身の体験と重なるものも存在する。たとえば、ある動画ではウイグルの住宅で漢族が食事を振る舞われている様子が撮影されていた。漢族は笑顔だ。友好な関係を築いているようにも見えるが、どこか不自然。理由は、ウイグルの人々がどこか緊張したような面持ちで食卓を囲んでいるように見えるためだ。
この動画が何を意味するのか。ヒントは、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が8月31日に発表した「新疆ウイグル自治区の人権状況に関する報告書」にある。
この報告書は、中国の政府職員が一定期間、ウイグル族の住宅で寝食を共にするプログラムが実施されていると指摘した。名目は「民族団結」などとなっているが、実際は私生活にまで監視が及んでいる、と問題視している。
ズムレットさんが私への説明に使った写真でも、本人と子ども、そして漢族とみられる人たちが、一見して和やかな雰囲気でいる。この写真は2016年、まだズムレットさんがウルムチに暮らしていた当時、訪問を受けた際に撮られたという。
ズムレットさんによると、訪問した漢族らしい人々への質問は禁じられていた。命じたのは地元の共産党幹部だ。だから、彼らのはっきりした素性は分からない。このグループは毎月訪れ、自宅に約2週間滞在。一つ屋根の下で生活しながら、ズムレットさんら家族に次のようなさまざまな質問を投げかけたという。
「お母さんは普段、(イスラム教の)お祈りをしますか?」「家に礼拝に使用するマットはありますか?」
目的は、宗教に対する考え方を確認するためのように感じた。質問は当時13歳の子どもにも投げかけられる。ズムレットさんは気が気ではなかった。「いつ口を滑らせてしまうか。強いストレスを感じながら、いつも彼らが来る前に家族会議を開き、想定問答を用意した」

米国への亡命後、証言活動に踏み切った。中国外務省の記者会見中に名指しで批判されたこともある。ズムレットさんは写真を手に、私にこう訴えかけた。「これは一般的に、証拠と言わないのでしょうか?動画アプリでウイグルの人々が訴えていることは、全て自分や家族が体験したことです。メディアは現地に行けないし、仮に行けても誰も何も答えられない。リスクを覚悟した彼らの発信に気付いてください」

▽「いつ戻ってくるの」
ズムレットさんは昨年11月、ドウインに投稿されたこんな動画を見つけた。父親と思われる男性の写真を胸に抱き、ベッドで眠る子どもの姿が映り、「いつ戻ってくるの」「会いたい」などと中国語で帰りを待ちわびる文言が添えられていた。この父親は収容施設に送られたとみられる。
ほかにも、大きな荷物を抱えた大勢の人が広場に集められる様子や、養護施設で過ごしているとみられる子どもたちの動画もあった。米国政府や国際人権団体がその存在を指摘してきた強制労働や親の収容をうかがわせる内容だ。
日本ウイグル協会のレテプ・アフメット副会長(45)さんは「ウイグル人はずっと苦しみを訴えてきた」と話した。レテプさんも、故郷に暮らす家族全員の消息が分かっていないという。