中国 : 繰り返される抗議の背景にある、ウイグルの長年の不満に対処すべき

アムネスティ・インターナショナル
国際事務局配信日:2011.02.04 | 翻訳・掲載:2011.02.25

中国西域のグルジャ市(中国名:伊寧・イリ)にある、新疆ウイグル自治区(XUAR)におけるウイグルの平和的抗議活動が治安部隊によって暴力的に弾圧されてから、2月5日で14年を迎える。

1997年2月5日にグルジャでウイグルのデモ隊に向けて治安部隊が発砲し、何十人もの人が死傷した。マシュラップ(meshrep)と呼ばれるウイグルの伝統的な集会の禁止やウイグルのサッカーリーグ解散、ウイグル人の高い失業率、宗教学校の閉鎖などに対して、ウイグル人は平和的な抗議活動を始めた。この弾圧により何十人もの人が死傷し、未確認情報によると余波の中で犠牲者は数百人にのぼるとされている。また、政府による弾圧の結果数千人が拘束され、何百もの人が消息を絶ち、不公正な裁判の後に処刑されたことなども報告されている。

2009年の7月5日、ウルムチのウイグル人が平和的抗議活動を行った際にも、治安部隊は再度、暴力的にこれを鎮圧した。このときの抗議行動は、広東省の南部の韶関で2009年6月にウイグル移住労働者が漢人によって殴打され、殺害されたことについて、何の対処もしなかったとみられる政府に対するものだった。その後、漢人とその他の民族との間に暴力的な衝突が起き、結果何百人もの人が死亡した。これに続く取り締まりにより、グルジャのときと同様に数千人が拘束され、数百人が収監され、数十人が不公正な裁判の後に処刑された。

どちらの事件についても、とくに当初は平和的な抗議をしていた人びとに致命的武力を行使した件について、政府は独立機関による調査を許していない。治安部隊の誰も、調査や起訴の対象になったことは知られていない。

これらの記念日は、また政府による弾圧が続き、ウイグル人の正当な不満に適切に対処しなかった一年が経過したことを意味する。「調和した」社会をもたらすという表明とは裏腹に、こうした戦略はむしろ民族間の緊張をもたらしている。

■深刻な市民的および政治的権利への侵害

何年にもわたり、ウイグル人の市民的および政治的権利を侵害する政策を政府は遂行してきた。非公式なウイグル人の文化活動や宗教活動および異議の表明を政府はつねに「テロリズム、分離主義、宗教的過激主義」の「三勢力」に関連付けてきた。ウイグル人の多くは、自らの文化を享受し、それを発展させることを始めとする、表現や結社、宗教の自由を行使したことを理由に、「分裂主義」や「分離主義の扇動」の罪に問われ、恣意的に拘束、収監されてきた。

新疆ウイグル自治区内のウイグル人の状況について秘密扱いの情報を中国外に伝えた者には、とくに厳しい処罰が下される。このような罪を問われた人びとは、公正で公開の裁判を受けられず、弁護人を自らは選べず、起訴もないまま長期間拘束され、家族に消息も知らされず、拘禁中に拷問や虐待を受けるなど、正当な司法手続きを受けられずにいる。

中国国家ラジオ局(中央人民広播電台)で8年間ウイグルを担当したキャスター
であり、編集者でもあるメメトジャン・アブドゥラ(Memetjan Abdulla)は2010年4月に非公開の裁判によって終身刑を言い渡された。彼の「罪」は海外のウイグル人亡命者のために世界ウイグル会議が出した、広東省の韶関で2009年6月のウイグル人への殴打と殺害に対する抗議声明をウイグル語に訳し、ウイグルのウェブサイトであるサルキン(Salkin)に投稿したことだった。

30代のアブドゥラは、この殴打と殺害に関するウイグル人の反応について北京の外国人ジャーナリストからの質問にも答えていた。裁判を傍聴した匿名の情報筋は当局のアブドゥラの行為に対する怒りが、彼へのとくに厳しい刑に繋がったと報告している。このようなコミュニケーションに対する厳しい刑罰は、事実上新疆ウイグル自治区での情報封鎖であり、中で起きていることについて、政府の情報と見解のみが機械的に流されている。

ウイグル人が自らの宗教を実践する権利に対する抑圧は、中国で最も厳しいものだといえる。2009年12月に施行された新しい規制では、いかなる組織や個人も「年少者を宗教活動への参加させるよう勧誘したり、強制すること」を禁止しているが、何がこのような行為に当たるかは明示されていない。そして法令としては始めて、違反者に対しする拘束を含む行政的処罰を行う権限を治安部隊に与えると定めている。つまり親達が自分の子供に宗教的な教育を施したり、モスクに行くことを許せば、罰金や拘禁の対象になる危険が生じる。

ウイグル人学生がアムネスティ・インターナショナルに語ったところによると、彼らは、もしモスクに行っていることが知れたら退学させられる恐れがある。新疆ウイグル自治区の教師や警察官、他の政府職員を始めとする公務員も同様に宗教活動を禁止され、これに違反すれば解雇および起訴される恐れがある。

■継続する経済的、社会的および文化的権利の侵害

ウイグル人は依然として経済的、社会的、および文化活動の侵害に苦しんでいる。新疆ウイグル自治区政府のウェブサイトに記載される求職案内は行政職や、公的企業、民間企業の求職について漢人に限るものを維持している。つまりこれは、政府が差別的な雇用活動に関与していることを意味し、同時に民間企業が差別を行うことを暗に認め、これを止めさせることを怠っていることを意味する。このような差別は激しい怒りを招いている。中国東部で中国の大学で教育を受けた北京語に堪能なウイグル人でさえ、就職において民族差別を受けていると報告している。

何人ものウイグル人がアムネスティに報告したところによると、雇用差別が近年悪化しており、これはこの地域への漢人の移住が増えていることと「二言語教育」政策により加速している。中国標準語を学校でおもな指導言語として使い、司法制度やその他の社会生活においても同様で、ウイグル語はその分、隅に追いやられている。

この政策はすべてのウイグル人の怒りに油を注いでいる。彼らの言語が失われていくことがウイグル文化とアイデンティティに対するもっとも大きな脅威であると、多くのウイグル人がアムネスティに訴えている。多くのウイグル人が自分の親戚や友人らが北京語の不十分さを理由に、この政策の結果解雇されたと語っている。一人の若いウイグル人女性は以下のように語った。

「もしもウイグル語の教師が解雇され、教室でのウイグル語の使用の禁止が続くなら、ウイグル語は途絶えウイグル人も消えてしまうでしょう。」

60%が少数民族である地域で、このうちウイグル人が多数を占める地域で、政府は国際人権法とその基準にのっとり、ウイグル人やその他の少数民族が自らの文化を享受し、自らの宗教を実践し、自らの言語を使用する権利を尊重しなければならない。

1970年後半に経済改革が行われてから30年の間、新疆ウイグル自治区は石油や自然ガスなどの自然資源に恵まれているにも関わらず、国内の他の地域に比べ経済活動で遅れをとり、最も貧しい地域に名を連ねている。2010年の5月、新疆ウイグル自治区経済の後退状態についてと、経済活動と民族団結、社会安定の間には関係があることを認め、政府は2015年までに所得を全国平均まで上げることを約束する大規模な投資計画を発表した。

このような開発計画により、少数民族の背景にある不満に対処するためには、政府は計画の策定とその実施において、活発な議論を促進し、少数民族の様ざまな意見を求め、その結果生じる利益が民族間で公平に享受されることを保障する必要がある。さらに雇用、土地所有、ビジネスチャンスの機会といった、経済領域での差別については、いかなる開発計画の実施においても真剣に対処しなければならない。

http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=914