若年ウイグル人女性の中国本土への強制連行

中国政府は、ウイグル人の言語・歴史・文化・宗教を徹底して弾圧し、ウイグル文化やウイグル民族そのものを完全に抹殺しょうとしている。ウイグルの民族アイデンティティを否定する民族浄化政策の結果、シルクロードの主な文化を作り上げたウイグ ル人は今や絶滅に瀕している。

「一家に一人の供出」

2006年以来、中国政府は、「経済的機会を供給する」という名目のもとで東トルキスタンから若年ウイグル人女性を中国本土各地に移送する政策を実施すると同時に、一方で大量の漢人経済移民の東トルキスタンへの流入と就職を政府を挙げて支援している。

中国政府は、政権の強制力によって15歳から25歳の結婚適齢期の未婚のウイグル人女性を年間数万人単位で計画・組織的に中国本土各地に強制的に移住させている。この政策により、東トルキスタン各地(特に、独特なウイグル文化が強く残る、ウイグル人の多数が居住する東トルキスタン南部地域)から「一家に一人の供出」とのスローガンの下で若いウイグル人女性が徴集され、計画・組織的に中国本土各地に強制連行されている。強制連行に従わない者は、結婚証明書の発行禁止・農地の没収・罰金刑などの対象にされるほか、「反政府分子」「民族分裂主義者」などのレッテルが貼られて政治犯扱いにされている。自由な募集ではなく、役所の職員や警察が政府から要求された人数をウイグル人の自宅まで足を運び徴集している。雇用契約も政府側と企業側との間で結ばれており、途中でやめて帰郷することも許されていない。つまり、行きも帰りも本人の意志に伴うものではなく、政治の都合に従うものになっている。

中国政府の真の狙いは何か?

「ウイグルで就職できない人々に内陸で職を与える」というのが政府の言い分ではあるが、その一方で毎日のように内陸から大量の漢人移民を移住させ、政府が自ら数々の支援策を提供しウイグルで就職させているわけだから、ウイグルで職がないはずがない。自治区政府から村の役所まで人事権を含む主な権力を握っている実力者のほとんどが漢人であるため、ウイグル人に限って就職の機会から意図的に外されているのが現実である。この政策により、数万人もの若いウイグル人女性が家族と離ればなれにされ、故郷から何千キロも離れた中国本土各地で過酷な労働条件と厳重な監視の下で、漢人労働者に比べて何倍も安い信じ難い低賃金で働かされている。

一人っ子政策のために、中国の親たちは堕胎や産み分けで男児を選びがちだ。その結果、適齢期の男性数千万人が結婚できない事態に陥る傾向にある。強制的に移住させられているウイグルの女性たちは、安価な労働力だけではなく漢人男性の伴侶の供給源になってしまう恐れもある。そして、このまま続けば近い将来ウイグルの人口バランスが著しく崩れてしまう恐れもある。

中国政府の真の狙いは、ウイグル人の強制的な同化と、東トルキスタンに残る独特なウイグル文化の土台を壊すことにあり、未来のウイグルの母となる人々を真っ先に民族同化・民族浄化政策のターゲットにしているわけだ。この政策の結果、ウイグルの未来の母となるはずの若い女性数十万人(当局の発表でも30万人を超えている)がわずか数年間で東トルキスタンからいなくなると言った恐ろしい現実が生まれている。中世時代の奴隷貿易を連想させるこの問題は、まさに民族の存亡にかかわる最も深刻な問題の一つとなっている。

圧力と脅迫、侮辱と虐殺

ウイグル人権プロジェクト(UHRP)が2008年にまとめたレポート「欺計、圧力、脅迫:ウイグル人若年女性の東中国への移送」でも比較的詳細に検証されているように、東トルキスタンから中国本土に強制連行されているウイグル人たちは、移送先で経済(給料)面でのごまかし、政治面での脅迫を受けているほか、まるで収容所の犯人みたいに厳重な監視の下に置かれており、事実上の強制収容所生活を送っている。

それだけではない。移送先で侮辱され自殺するケースもあれば、集団で虐殺されるケースもある。政権の強制力によって事実上の故郷追放と奴隷生活・侮辱・差別を押し付けられたウイグル人たちは、移送先で大漢族主義の犠牲になり、集団虐殺の対象になっていることが2009年6月26日に広東省で起きたウイグル人虐殺事件(2009年7月5日にウルムチで起きた大規模な平和的な抗議デモと、その後の中国軍の無差別発砲による大虐殺の引き金となった事件)でも証明されている。

中国政府のこの悪質的な政策は、ウイグルの祖国東トルキスタン国内外のウイグル人の激しい反発を呼んでいる。しかし、中国政府は、ウイグル人に対する民族浄化政策の重要部分であると位置づけているこの政策を見直すことなく、逆に、政治・法律・経済面で圧力・脅迫・罰金・土地の没収を押し付けるなどの非人道的な手段を使用し強行している。(ウルムチ大虐殺以降もこの政策が強行されている。)

【関連記事】