隠蔽され続けた中国核実験被害

世界日報 2009.03.22

隠蔽され続けた中国核実験被害、札幌医大・高田教授が明らかに

中国は一九六四年から九六年までに、延べ四十六回にわたり核実験を行ったとされる。とりわけ一九八一年まで続いた地上核実験では、放射能に汚染された大量の粉塵が周辺居住地区や風下に降下したため大災害をもたらした。がん発生率の上昇や奇形児の誕生など被曝した地域住民に被害が及んだ。長年、隠蔽され続けてきた真実が、一人の教授によって暴かれつつある。(池永達夫)

46回実験で19万人死亡 129万人が放射線被災 最大4メガトン級も
邦人旅行者にも影響か 地域住民には一切知らせず

先日、中央アジア史研究家の金子民雄氏の自宅を訪ねた。居間にはスコタイ時代の仏像や千一夜物語の原本などが置かれ、研究フィールドの一隅を照らすような「小博物館」となっている。だが、中国タクラマカン砂漠のロプノル近郊から持ち帰ったとされるものが一切見当たらない。

「ヘディンが発見した“さまよえる湖”ロプノル周辺を歩いたのは、一九九五年だったが、現地の小石とかの標本を理研(理化学研究所)で調べてもらったら、通常の数百倍、数千倍もの放射能が検出され、持たない方がいいということだった」

事の顛末を述べた金子氏は、症状にも触れた。

「ロプノルのフィールドワーク時、涙が出てきてティッシュで拭くと血がにじんでいた。のどもやられ、鼻血も出た。今でも一旦、涙が出だすと止まらなくなる。この季節の花粉症で涙が出ると止まらなくなる」という。

実はこの新疆ウイグル自治区のロプノルに建設された核実験場で、中国は一九六四年から九六年までに、延べ四十六回にわたって核実験を行ったとされる。

金子氏の症状が、現地の放射能による可能性は極めて高い。

一方、国会議事堂前にある憲政記念館でこの十八日、「シルクロードにおける中国の核実験災害と日本の役割」をテーマにシンポジウム(日本ウイグル協会主催)が開かれた。

席上、パネリスト高田純・札幌医大教授は「中国では最大四メガトン級という、ソ連で行われた核実験の十倍もの爆発力を持った大型核実験で、放射能汚染された『核の砂』を撒き散らした経緯がある。これらの核実験で、周辺住民十九万人が急性死亡し、放射線の影響を受けた面積は東京都の百三十六倍に及び、百二十九万人が甚大な放射線の影響を受けたものと試算される。中国共産党機密情報では七十五万人死亡説もあるほどだ」と述べた。

中国政府は長年、現地を公開せず、核実験の事実や被害の実態を公表してこなかった。こうした封印された核実験災害の真相に、知恵を駆使して迫ったのが高田教授だ。

その手法とは、北西に国境を接するカザフスタンで入手した科学報告書のデータを分析することで、ウイグルにおける中国核実験の被害評価を試みるというものだった。

また、イリハム・マハムティ日本ウイグル協会会長は「ソ連でさえ、四国ほどの核実験場に人が入らないよう有刺鉄線で囲って核実験を行った。中国は地域住民に一切知らせることがなく、ウイグル人だけでなく漢人も犠牲になった。人間を実験台として核実験のモルモットとして使った。人間を軽視しているのではなく無視したのだ」と訴えた上で「核の最初の犠牲国である日本から、この問題を世界に発信したい」と、同シンポの意義を強調した。

そして、英国に亡命中のウイグル人アニワル・トフティ氏は「中国は自国だけでなく、パキスタンにも核実験の場を提供。インドが核実験をして、その一週間後にパキスタンは核実験をしてみせ、インド側を牽制しているが、実はその前に中国で既に二度ほど核実験を行っていた」と語った。

思い起こされるのは、八六年四月にソ連で起きたチェルノブイリ原発事故だ。この事故で大量の放射能が大気中へ放出され、原発周辺だけでなく二百㌔以上離れた所にも高濃度汚染地域が広がった。そのため、子供たちの間にがんや機能障害などの深刻な被害をもたらした経緯がある。

中国のウイグルでもチェルノブイリ同様、悪性リンパ腫や白血病に罹る人々が急増した。七〇年からがん発生率は上昇し始め、九〇年で全国平均30%以上、九三年から二〇〇〇年にはウルムチのがん発生率が他地域の二倍となっている。

なお、金子氏の症状を知った高田教授は二十一日、「シルクロードは核実験場所と観光地が同居した、世界に類を見ない地獄だ。その観光には、核放射線のリスクが伴う。特に一九九六年までの現地訪問のリスクは高く、それ以後も核ハザードは残留している」と本紙にコメントを寄せた。

一方、ノーベル賞作家の大江健三郎氏はフランスの核実験には抗議しても、中国の核実験には口をつぐんだままだ。また反核平和団体は、米の核兵器には廃絶を叫ぶが、中国の核実験には目をつむっている。NHKも同罪である。何度も放映された「シルクロード」は日本人の旅心をくすぐり、多くの人々を敦煌や楼蘭などにいざなった。

だが、これらの地域は「核の砂」で汚染されている可能性が極めて高く、リスクも高いことは疑う余地もない。現地取材を何度も重ねているNHKが、この核実験の事実とそのリスクに気が付かないはずがない。

しかし、中国共産党の「虎の尾」を踏まぬため自己規制を掛けているところに、わが国のジャーナリズムの深い闇がある。

http://www.worldtimes.co.jp/today/kokunai/090322-1.html