全国初の太陽光パネル設置義務化 残る人権問題

全国初の太陽光パネル設置義務化 残る人権問題

東京都内の新築一戸建て住宅への太陽光パネル設置の義務化が令和7年4月から始まることが決まった。全国初の義務化を目指す関連条例が成立し、脱炭素社会を旗印に小池百合子知事は強い意欲を示す。だがこの条例には多くの問題が指摘されている。なかでも、太陽光パネルの大量消費が進むと、生産地とされる中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害が悪化する可能性があるという訴えは悲痛だ。

新築戸建て住宅に

「2030(令和12)年までのカーボンハーフ(温室効果ガス排出量の半減)を確実にするため、一つずつ皆さまに理解を深めていただきながら前に進みたい」

小池百合子知事は15日、パネル設置義務化を含む都の「環境確保条例」の改正案が都議会本会議で、自民党などを除く賛成多数で可決、成立したことを受けて、改めて義務化に向けた強い意気込みを示した。

同条例に沿い、都は、一戸建て住宅を含む延べ床面積2千平方メートル未満の中小規模の新築建物について、都内での供給延べ床面積が年間2万平方メートル以上の住宅メーカー約50社などに、設備を設置することを義務付ける。設置が難しい屋根面積20平方メートル未満の建物は対象外とする。

日当たりの条件などを考慮し、メーカーごとに発電容量目標を設定。メーカーは都に対し、達成状況を報告する。取り組みが不十分でも罰則はないが、都はメーカーに改善を求め、指導や勧告を行う。

小池氏が「エネルギーをどう確保するかは、国家の安全保障と同等ぐらいに重要な話」と意義付けたパネル設置義務化を巡っては、川崎市も追随する方針を表明。同様の動きは全国に広がる可能性がある。

「ジェノサイドに加担」

都の設置義務化を巡っては、人権問題を指摘する声が上がっている。都庁で今月6日、記者会見を開いた杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は「世界の太陽光パネルのシェアの大半は中国が占め、その半分は、ジェノサイド(民族大量虐殺)が行われた新疆ウイグル自治区産とされる」と指摘。都の義務化方針に反発した。

中国国外に逃れた亡命ウイグル人でつくる民族団体「世界ウイグル会議」(本部・ドイツ)のドルクン・エイサ総裁は、来日した際の5日の記者会見で、都の義務化実施に伴い、新疆ウイグル自治区の強制労働による生産が疑われる中国製のパネル部材が使われれば「ジェノサイドに加担することになる」と訴えた。

在日ウイグル人らによるNPO法人「日本ウイグル協会」(文京区)のレテプ・アフメット副会長(45)もパネルの供給網(サプライチェーン)の見直しを求める。

人権問題をめぐって小池氏は、7日の都議会代表質問で「年明け後に事業者説明会で新たに人権尊重の研修を開催し、パネルメーカーとの意見交換を通じて企業の適正な取り組みを促す」と説明した。

だが、アフメット氏は「他国より安いコストで済む中国製品は、調達する企業側からすれば魅力的で、人権問題を企業任せにする都の対応は不十分だ」と指摘。小池氏に対し、政府と連携し、ウイグル自治区からの輸入を原則禁じる法律を施行した米国と同様の法整備を検討するよう要請している。

今こそ、日本をリードする首都・東京のトップである小池氏が、ウイグルの人権問題を巡る法整備を含む抜本的な対応を国に働きかけていくべきではないのか。脱炭素社会の実現と同じ熱量で、世界の人権問題についても臨んでほしい。(植木裕香子)