健康と核実験

1949年の占領以来、東トルキスタンの人々の生命、土地、財産が中国の軍事・経済発展のために犠牲にされてきた。ウイグル人の先祖たちが代々暮らしてきた土地は中国共産党政権により核実験場にされ、より肥沃な土地は中国人(漢人)により殖民された。その過程の中で、巨大な石油・ガス・石炭などの豊かな天然資源や希少金属は中国の渇望する経済を満たすために搾取された。中国は、東トルキスタンで核実験を繰り返し軍事力を世界に誇示しつつ、経済発展を遂げ、ついに軍事・経済大国までになった。その影で核実験のモルモットにされたウイグル人の生命、土地、そして略奪された巨大な資源が犠牲となってきた。ウイグル人の生命や財産の犠牲の上に、中国の今の軍事・経済発展が成り立っているのである。

中国政府が東トルキスタンで強行した危険極まりない核実験

中国政府は、ウイグルの祖国東トルキスタンのロプノルに建設した核実験場で1964年から1996年にかけて、地表・空中・地下にて延べ46回、総爆発出力(エネルギー)およそ20メガトン(1945年に広島に投下された原子爆弾の1000倍に相当する爆発出力)の核爆発実験を行った。そのうち、地表核爆発は12回、空中核爆発は11回、地下核爆発は23回となっている。

ロプノル核実験場での最初の核実験(地表核爆発)は1964年10月16日に、最後の核実験(地下核爆発)は1996年7月29日に行われた。46回もの核実験のうち最大爆発出力は、1976年11月17日の4メガトンの大型地表核爆発である。1964年から1982年までは、主に地表と空中核爆発が実施された。1982年から1996年までは、主に地下核爆発が実施された。長年隠蔽され続けた中国の危険極まりない核実験の実態は、札幌医科大の高田純教授の科学的調査研究によって明らかになってきた。

高田純教授の研究によると、米ソなど核兵器保有国は、地表の核汚染被害として最悪とされるメガトン級の大型の大気圏核爆発を内陸では実施していなかった。そうした大型の大気圏核爆発が周辺住民にとっていかに危険かを承知していたからである。しかし、中国は、ロプノルの核実験場で、核爆発災害として最も危険な大型の地表核爆発を含む大気圏核実験を、少なくとも20回以上実施している。特に、メガトン級の大型核爆発が地表およびその近傍で複数回実施された。中には、ソ連がカザフスタンの内陸で行った最大爆発力の核実験の十倍もの爆発力を持つ大型核実験もある。

ロプノルの核実験場から1000キロ以上も離れているカザフスタンの土地でさえ、中国の地表核実験から飛来する核分裂生成物の放射線影響により胎児影響の危険性が高まる危険な放射線線量(人体が吸収する放射線のエネルギー量)を少なくとも2度受けていることがロシアとカザフスタンの調査報告で指摘されている。また、高田純教授の調査研究でもそれが科学的に証明されている。しかも、広島の空中核爆発の場合、同程度の危険性を持つ放射線線量を受けたのは爆発ゼロ地点から半径2キロ範囲内の地域に限られていたという。広島の事例と比較して、ロプノルの核実験での放射線影響がいかに広範囲にまで危険性をもたらしたのかはこの例からも想像できる。

1986年にソ連で起きたチェルノブイリ原発事故で大量の放射能が大気中へ放出され、原発周辺だけでなく二百キロメートル以上離れた所にも高濃度汚染地域が広がり、その影響で子供たちの間にがんや機能障害などの深刻な被害をもたらしたことはよく知られている。高田純教授の研究によると、ロプノルでの地表核実験で、爆発直後に発生した全放射能はチェルノブイリ原発事故で環境へ漏洩した全放射能の400万~650万倍もあるという。

ウイグル人を襲った核の悲劇:数十万人が急性死亡、数百万人が急性放射線障害

中国政府は東トルキスタンで46回もの危険な核実験を強行したが、いずれの場合でも周辺住民に事前に予告し避難させるなどの安全対策を取ることはなかった。それどころか、ウイグル人には核実験そのもの存在さえ知らせてこなかった(現地のメデイアではそれを報じることは許されていない)ので、ほとんどのウイグル人住民は核実験の実験事実も被害状況も一切知らずに暮らしている。

中国政府は長年、現地を公開せず、核実験の事実や被害の実態を公表してこなかった。長年隠蔽され続けた中国の危険極まりない核実験の実態は、札幌医科大の高田純教授の科学的調査研究によって明らかになってきた。高田純教授は、世界で最も不透明な中国の核実験災害の科学的な分析・評価を行い、ロプノルで実施された核実験の影響で周辺に居住するウイグル人らの急性死亡は19万人にのぼるほか、急性の放射線障害(特に白血病、甲状腺がんなど様々ながん、死産や奇形児)など甚大な影響を受けた被害者は129万人に達するとの調査結果をまとめている。しかも、これはメガトン級の大型地表核爆発がもたらした被害状況を反映している調査結果であり、ほかの核実験もあわせると犠牲者数はそれ以上となるという。中国共産党機密情報では核実験で75万人死亡説も流れているほどである。

高田純教授の科学的な調査研究によると、ロプノルでのメガトン級の大型地表核爆発では、核実験からの放射性降下で(放射能に汚染された大量の粉塵が周辺居住地区や風下に降下したため)致死リスクを負う線量レベルAの区域の範囲は風下200~300キロメートル、急性放射線障害が発生する線量レベルBの区域の範囲は風下400~500キロメートル、胎児影響の危険性が高まる線量レベルCの区域の範囲は風下1200~1400キロメートルにも及ぶという。核実験場からこれらの距離では多数の村や町が存在しており、多くのウイグル人が暮らしている。しかも、中国の核実験は核防護策がずさんで、被災したウイグル人に対する十分な医療的なケアも施されておらず、上記129万人のうち多くが死亡したとみられる。広島に投下された原爆被害の数倍を超える規模であるとされている。

1998年に英国テレビ局のドキュメンタリー番組に協力(潜入取材に参加)し、中国のロプノルでの核実験による後遺症の実態を世界に向けて告発したことで知られるウイグル人外科医アニワル・トフティ氏(1999年に英国に亡命)は次のように指摘する。「ウルムチの病院の腫瘍専門外科勤務だった私は、病床に占めるウイグル人の割合が極めて大きいことに気付いた。調査してみると、ウイグル人の悪性腫瘍発生率は、中国の他の地域の漢人と比べ、35%も高かった。漢人でも、東トルキスタンに30年以上住んでいる人は、発生率がウイグル人と同程度に高かった。取材で潜入した複数の村では、放射能汚染の影響とみられる数々の悲惨な光景を目の当たりにした。特に東トルキスタン南部では、内臓異常で腹やのどなどが肥大化した人が大勢いる村があった。先天性異常の大脳未発達で、歩くことも話すこともできない障害児ばかりが生まれる村もあった。」

ロプノルでの核実験は国際社会の圧力で1996年以降は中止されたが、放射能の影響は現在でも残っている。中国政府は「核実験による周辺への悪影響はない」との立場を繰り返しており、核実験による放射能汚染や後遺症の存在を認めていない。海外の医療団体の調査立ち入りも認めておらず、核実験の汚染を除去しょうという努力も一切していない。ウイグルでもチェルノブイリ同様、悪性リンパ腫や白血病に罹る人々が急増し、障害を持って生まれてくる子供たちの数も非常に増えている。ロプノルでの核実験にかかわった軍人らには中国政府による補償の実施が伝えられているが、ウイグル人の核実験被災者は医療を含む一切の補償を受けておらず放置されたままである。

なお、中国の核実験災害とウイグル人の被害状況については、中国の核実験災害に対する科学的調査研究結果をまとめた書籍「中国の核実験」(高田純著、医療科学社、2008年)に詳細が記述されている。

衝撃的なドキュメンタリー動画:death on the silk road
(フリーの映像ジャーナリストに与えられる世界でもっとも名誉ある賞「ローリー・ペック賞」を受賞した英国テレビ局のドキュメンタリー番組。日本語字幕付き。)

【ウイグル】中国の核実験 潜入調査 その1 【ウイグル】中国の核実験 潜入調査 その2

【ウイグル】中国の核実験 潜入調査 その3 【ウイグル】中国の核実験 潜入調査 その4

 

【関連記事】